矯正歯科

治療前に知りたい!歯列矯正で歯が動く仕組みについて

 

歯並びについて悩んでおり、これから歯列矯正治療をしようと考えている方に知っていただきたい知識があります。それは「歯はそもそも動くものなの?」という知識です。歯列矯正をなさるという方は、最初に歯列矯正治療にはどんな治療法があるか確認なさったのではないでしょうか。

歯列矯正の主な方法としては「ブラケットによる治療」「マウスピースによる治療」があります。どちらがより皆さんに適しているかは、口腔内の状況で判断するケースと、治療期間や費用によって決めることでしょう。治療法の説明を呼んで「なるほど、マウスピースやブラケットを使って歯を動かすのか」と納得しても、そこに「ちょっとした違和感」はないでしょうか。即ち、「こんな器具で歯が動くものなの?」「そもそもどうして歯列矯正で歯が動くの?」という違和感が。

歯列矯正治療の説明は、治療の説明が一般的です。どんな仕組みによって、その治療法で歯が動くのかは説明文にはほとんど記載がないという現状です。疑問に思ったら、歯科医師や歯科衛生士に尋ねることになります。そこで、今回は歯列矯正治療の説明ではカットされがちな、「歯列矯正で歯が動く仕組み」についてお話したいと思います。これから歯列矯正治療を受けたいと考える方のために、治療の流れについても一緒に解説します。治療に対して感じている不安を極力少なくするためには、「治療について知ること」「仕組みを知ること」が重要なのです。

■歯の矯正治療の流れとは?

まずは治療法の違いと、治療の流れについてお話します。治療の流れを知ることで、どのタイミングで「どんなことが起きているか=どんな仕組みが働いているか」を理解しやすくなることでしょう。なぜ歯が動くのかを知るためには、一通り歯列矯正治療について知っておくことが望ましいのです。これから治療を受ける方のためにも、簡単にわかりやすく、進めて参りましょう。

① ブラケット治療

歯に銀色のワイヤー装置を装着している人を見かけたことはありませんか。あのワイヤー装置が「ブラケット」と呼ばれる歯列矯正装置になります。歯列矯正治療と言われれば多くの方が「銀色のワイヤーを歯につける」という想像をするほど一般的な歯列矯正器具であり、歯列矯正治療の中でも一般的なものです。あまりに一般的すぎて、「歯の目立つ銀色のワイヤーを装着するのは審美面で気になる」と、治療に二の足を踏まれる患者様もいらっしゃいます。なので、近年は透明なブラケット(効果はまったく同じです)を使って治療することもできるようになりました。透明なブラケットは目立ち難く、審美面への影響が最小限なのです。

ブラケット治療は、歯にブラケットを装着し、ブラケットにより圧(力)をかけて歯並びを調節します。ただ力をかければいいというわけではありません。歯列の状況を見ながら歯科医師が適切な力に調整することになります。この力の調節により徐々に歯を動かし、最終的に綺麗な歯並びへと導くことがブラケット治療の目標です。

治療の流れは次のようになります。

1、 診察と治療前の相談
2、 歯のクリーニングや虫歯、歯肉炎などの必要な処置を行う
3、 抜歯(必ず必要というわけではありません。口腔内の状況によります)
4、 ブラケット治療スタート
5、 定期的に状況を確認しブラケットの調整をする
6、 歯並びが整った後に動かした歯が戻らないように保定する

② マウスピース治療

マウスピース治療とは、マウスピースを使うことにより行う歯列矯正治療です。マウスピースは常時着用する必要はなく、生活の中のちょっとした空いた時間に装着していただくことで矯正が可能です。もちろん家事をしながら、勉強をしながら、読書しながら、といった「ながら装着」も可能です。

人前で矯正器具を着けている必要がないということは、歯列矯正治療をしていることがバレない、審美面に影響もないというメリットがあります。また、ブラケットのように常時装着している必要がないため、普通にブラッシングできます。口腔内に器具を入れっぱなしにすることにより衛生面に不安を覚えるという方も安心して使っていただける方法です。

ただしブラケットより歯の動きがゆるやかになりがちです。結果、矯正までに時間がかかる可能性や、歯列の乱れが酷い場合には使えないことがあるというデメリットもあります。

治療の流れは次のようなものです。

1、診察
2、虫歯や歯肉炎、歯のクリーニングなどの必要な処置をする
3、マウスピースを作成する
4、強い力のマウスピースとほどほどの力のマウスピースを交互に着けることにより歯にかかる力を調整しながら歯を動かす(歯科医師から適宜指導とアドバイスがあります)

■歯の矯正治療には他の方法も!自分に合った治療が大切

この他にも歯列の乱れを整える治療法はいくつかあります。

例えば歯科治療の中でも知名度の高い「インプラント」。このインプラント治療も、歯列を整えるために使うことのできる治療法です。しかしインプラントは人工的な永久歯を生成する治療法ですので、歯を少しずつ動かす治療法というわけではありません。また、当院で行っている「ルミネアーズ」も歯列の乱れを整える治療法として効果が期待できます。しかしルミネアーズの場合、歯の薄い膜を貼りつけることにより歯並びや着色を改善する治療法ですので、これまた歯を動かして歯列を治療する方法というわけではありません。

歯を動かして治療する方法としては「ブラケット治療」「マウスピースによる治療」が代表的です。今回は特にこの二つの治療法に焦点を当ててお話しました。ただ、近年は「歯列を整えたい」というニーズに対しても色々な治療法を選択できる状況にあります。歯列を整えたいと考えてインターネットを検索したらブラケット治療がいきなりヒットしたからと「じゃあ、ブラケット治療をしよう」と決める必要はありません。歯科医院で口腔内を診察してもらい、「他にどんなニーズがあるのか」「どんなことで困っているのか」を歯科医師によく話し、相談しながら自分にぴったりの治療法を探すことをお勧めします。

■歯列矯正治療で歯が動く仕組みとは

歯列矯正治療の流れを簡単に知っていただいたところで、ここからは歯がどうして動くのかについてお話しいたしましょう。

歯列矯正で歯が動く仕組みは「破壊と再生」がキーワードになります。キーワードを見ると「どうして治療なのに破壊が関わるのか」と思うかもしれません。人間の体が治るプロセスとして「壊れること」は表裏一体とも言えるくらい関連の深いことです。怪我が破壊だとすれば、皮膚がすっかり傷を覆い隠す癒しは再生です。歯列矯正治療で歯を動かすことも「怪我と治療」を想像していただくとわかりやすいのではないでしょうか。まったく同じというわけではありませんが、怪我と怪我が治癒する場面を想像してみてください。

歯列矯正では、ブラケットやマウスピースによって力をかけます。歯とその周囲に力がかかると、歯の根っこの周りにある「歯根膜」が収縮します。この時、力により引っ張られると刺激により新しい骨が生成され、力により縮が起きると歯の骨が溶けて壊れるという現象が起きます。

歯の骨が力によって引っ張られると、さらに骨のもとになる「骨芽細胞」が出てきます。この細胞により新しい骨が作られます。縮むと歯の周囲が狭くなりますから、血管などの部位がぎゅっと潰され、狭さのせいで潰されてしまい、周囲を巻き込んで炎症を起こします。すると、口の中は回復のために働き出します。炎症を起こしたままでは大変だからです。口の中では歯列矯正のために破壊と再生が繰り返され、個人差のある痛みが付きものというわけです。

力の加減を歯列矯正治療のできる歯科医師が行うことにより、骨を生成することと溶かすこと(壊すことと治すこと)というプロセスを人為的に起こさせます。それにより、ゆっくりと歯を移動させます。歯列矯正器具により無理矢理歯を動かしていると想像しがちですが、正確には力を調節することにより、人体の働きを利用して歯を動かしているという表現の方が正しいことになります。

治療に抜歯を伴うことがあるのは、歯をゆっくり動かして歯列を整えようとしても、スペースがなければ歯並びを綺麗にできないことがあるからです。例えばお口に対して歯が大きい方が歯列矯正をしようとすると、そのままでは歯は動いてくれません。お口の中の歯のスペースがいっぱいだからです。だからこそ抜歯によってスペースを作ります。意味もなく抜いているわけではありません。破壊と再生により徐々に歯を動かすため最終的に美しい歯並びにするためには必要な処置なのです。

歯は一ヶ月に1ミリくらいというかなりのゆっくりペースで動きます。ブラケットやマウスピースの場合、器具の摩擦力が働くため、器具による摩擦力も計算に入れながら、歯の必要以上の力をかけず、かといって弱すぎないように、長期を見て動かしてゆくことになります。力を歯科医師が調節することにより口の中に破壊と再生を起こし、無理なく綺麗な歯並びになるように動かすことができるというわけです。

なお、人間の舌は歯に対しかなりの力をかけることができると言われます。人間の頭は少なくとも5キロ以上の重さがあります。生活の中で舌の力や頭の重みがかかっても、歯はそう簡単に動きません。簡単に動いてしまうなら、寝ている時に頭の重みで歯列が動いてしまい、朝になって鏡を見たら歯列が動いてびっくりしたという事態になってしまうことでしょう。

ブラケットやマウスピースを用い、歯科医師が適切な力の加減と抜歯などの必要な処置を行うことにより美しい歯並びになる位置まで歯を動かします。同じ「びっくり」でも「綺麗になってびっくり」という結果をもたらすことができるのです。

■まとめ

いかがでしょうか。歯列がなぜ歯列矯正治療によって動くのか、その仕組みを理解していただけたでしょうか。また、歯列矯正治療で行われる「抜歯」「マウスピースの交換」といったプロセスも、歯を動かすために大切なことであると理解していただけたのではないでしょうか。

治療でいきなり「では、抜歯します」と言われると「え!」と驚いてしまいますが、治療のプロセスと歯の動く仕組みを理解すると、安心して治療を受けていただけるのではないでしょうか。「歯を抜く意味がわからない」という場合と「歯を抜く意味がわかって治療を受ける」という場合では、やはり治療に対する不安度はかなり違ってくるはずです。

もちろん治療開始前に、患者様の疑問にはしっかりとお答えいたします。気になることや不安なことは、どんな小さなことでも歯科医師に確認していただき、不安を無くして治療に進んでいただきたいと当院では考えております。